「一本道が、そこにあるから。」

「一本道が、そこにあるから。」

「太郎、美味しいだろう! この地域で一番のレストランだからなあ!」
そう言って、私と親子ほど歳が離れた取引会社の社長と、丁寧な英語で説明をしてくれたその秘書。

いまから10年以上前、“葉もの”の買い付けで訪れたマレーシアでの1コマだ。
ジョホールバルから車で延々続くヤシの樹々が導く一本道は、今でも記憶に新しい。
車酔いが激しい私にとって、気が遠くなるほど長時間に思えた車中から眺める景色は、映画のエンドロールのようだった。自称・晴れ男の私は、ギラギラした太陽の眩しさとキンキンに冷えた車内のギャップから南国らしさを感じつつ、目的地への早期到着を願った。

どれくらい時間が経っただろう。ふと我に返った瞬間、うっそうと生い茂るジャングルに、サンスベリアの一群が目に飛び込んだ。空気清浄で一世を風靡した観葉植物を求めて、この地を訪れた日本人はまずいないのではないかと、朦朧とした状態でも少々誇らしげな気持ちになり、胸の奥で笑う。

いつも感じるのだが、畑で見る植物は普段会社で見る姿とは異なり、とても美しく躍動感に満ち溢れている。そんな感動にも似た感情に浸る私を、現地の農家さんが神妙な顔つきで伺う。

私の一人旅は、いつも人との出会いが基本だ。
そして、それがないと商売なんか出来ないと信じている。
行く先々で、「珍しい人だねえ!行動に起こすのは難しいのにねっ!」とよく言われる。
正直、嬉しさ半分、不可思議半分。

そう言えば、冒頭のレストランの食事は、なかなかの美味しさだった。
40cm超はあるだろう素揚げの魚に舌鼓を打ちながら、私の両脇でニコニコする2人の顔が印象的で今も感謝の念でいっぱいだ。ただ帰国後、私のお腹を襲った厄介者が今でも憎らしい思い出。水は、「飲み慣れたものに限る!」そう解った旅でもあった。

「一本道が、そこにあるから。」