「物事と気の流れ」
会社がある奈良県から、西へ車を走らせることが多かった出張だが、久しぶりに反対方向の伊勢神宮方面へと走らせた。片道は、約2時間。一人旅に慣れている私は、暇つぶしの一つとして、車内で一人カラオケをする。もちろん気持ちを込めながら。すれ違う車や対向車には一切かまうことなく、一生懸命歌って繰り広げられる、リサイタルショー。
今回、そんなささやかなショーを繰り広げながら会いに行ったのが、伊勢神宮に毎年奉納米を納めている農家さんだ。いつもながら、パソコンのキーボードをポチポチしながら「ビビッ」と感じた方に、「会いたいなぁ」というところから連絡をしたのがスタート。
朴訥(ぼくとつ)で穏やかな表情で出迎えてくれたのが、山路さん。
代々守ってきた田んぼの後継者が不足し、岐阜から移住して、本家を引き継いだのがすべての始まりだ。彼が過ごす明和町地区(三重県)は、毎年収穫されたお米を、伊勢神宮に奉納することが許された地区である。
山路さんとはお米の話だけでなく、様々な話に花が咲いた。自身で定植し、始めた有機イチジクの話、無農薬のお米に挑戦した時の苦労話、奥さんが趣味にしているタペストリーなど。決して順風満帆とは言えない就農スタート当時からのひた向きさが、地元のファンの方からの心の応援へと繋がっているのが感じ取れた。
「中村さん!私はいつも、出来るだけ長くお付き合いすることを願っています。ただ、人と人の間には、『気、みたいものがある』のを感じます。また、愚痴ばかりこぼす人の近くにいると、陰の負のパワーが自分にも伝播します。だから極力、陽で明るく前向きな方との繋がりを大切にするようにしています。」
確かに、私も全国津々浦々を巡る中で出会う方々とのご縁は、山路さんが力説するものと非常に似ている。そしてその都度、出逢いや巡り合わせに感謝するとともに、何とも言えない不思議な感覚で満たされるのが常だ。
人は目に見える景色や自身の視点で理屈を並べがちになるが、『見えない力や運命の糸』がたえず私たちを動かしていると信じずにはいられない。
そう言えば、いつも農家さんやメーカーに会いに行く時、出来るだけ打算を取り去って、「この人に会いたい!」そう強く思える時に行動へ移すよう、心掛けている。大抵そのような場合、良縁となり、素晴らしい出会いにいつも感謝する自分がそこにいる。
机上の空論で推し測れない真実が今を動かし、未来を創っている。