" オーライ オーライ よっしゃ ! ストップ ! ”

” オーライ オーライ よっしゃ ! ストップ ! ”

4tトラックの荷台に満載された、ひと際目立つシクラメンやシンビジューム。その傍らで、世の中にこの人以上に『ねじりハチマキ』と『Tシャツ』が似合う男性はいないと言っても過言ではない、威勢の良い男性。それが、南さんと初めて出会った日。

仕事がひと段落した夕方、私はよく会社を抜け出して彼が営む植物卸のハウスへ行っていた。昔ながらの灯油ストーブに手を当てながら、ラジオから流れるニュースをバックミュージックに、会話に花が咲く。少し不愛想な彼の風貌からは想像出来ないほど、花の話をし始めると饒舌さが際立つ。そんな南さんのお気に入りは、シクラメンとポインセチアだ。

「このシクラメンの階段のような葉の段がいいんだよ!」
そう言いながら、愛しそうにシクラメンを眺める彼の表情が緩む。今となるとそれはまるで”親が子に何かを伝えるような優しさ”があったように、感じずにはいられない。

その後、商いを廃業して半分隠居生活を過ごしていた彼を、日本総合園芸の植物担当の教育係として招き入れたのが10年前だ。そしてあっという間に月日は巡り、2024年1月に定年退職で彼は静かに会社を去った。彼と出会ってからの泡沫の25年という歳月は、今も色褪せることなく私の胸の奥でずっと微笑んでいる。

「踏ん張れよっ」
彼は私の目をまっすぐ見つめながら、優しく語りかけて、最後に強く握手をした。あぁ、こんなにゴツゴツした手だったんだ…。25年の付き合いで彼を知ったつもりでいたが、また一つ新たな南さんを知る事ができて、少し新鮮な気持ちになった。

そういえば、新しい出会いを求めるため陶器市(愛知県)へ向かう前日、突然1通のメールが入った。3年前に出会ったモビール販売をしている今井さんからだった。

「今朝散歩している時、ふと中村さんを思い出しました。」
今年は中村さんに、絶対会え!そんな天からの声が聞こえたという。

人生とは、こんなもんだっ。

「実は明日、今井さんがいる愛知県に行くのでお昼でもどうですか!? 」
メールを返信する私は、キーボードをたたく指に力が入る。

「日本で馴染みがないモビールですが、海外では”動く彫刻”と言われてるんですよ!何か一緒にお仕事をしたいですよね!」今井さんとの再会に胸躍り、久しぶりの会話にも熱量が増した。彼からのそんな温かい言葉を手土産に、南さんの最後の終礼に間に合うよう、足早に会社がある奈良県へ車を走らせた。

南さんとのしばしのお別れ
今井さんとのあらたな再会

道中ふと思い出し、口ずさむ。
私は、美空ひばりさんの素敵な歌の一節がとても好きだ。

ああ 川の流れのように おだやかに この身をまかせていたい
ああ 川の流れのように いつまでも 青いせせらぎを 聞きながら
    (作詞:秋元康、作曲:見岳章 1989年「川の流れのように」から引用)