八重咲リンドウ “蒼孔雀” 誕生物語

八重咲リンドウ “蒼孔雀” 誕生物語

2001年、大学でリンドウの研究をかじっていた私は、夏休みで地元三重に帰り、園芸の師匠の所に遊びに行っていました。何時間も話が弾む中、ふと八重のリンドウってありましたっけ?と師匠に聞くと、昔手に入れたものがあるはずだから持っていきなさいとのことで、様々な植物が入り乱れるジャングルのような栽培場の片隅で名札もない苗を2株探し出し持ち帰りました。

その頃、市場に八重のリンドウは全く見当たらず、無いと思い込んでいましたが、過去のカタログや雑誌を調べると1981年以前に八重品種があり一度姿を消して1989年に竜峡(りゅうきょう)八重咲という品種が登場し、また姿を消しているという事でした。その2度目に市場に現れた品種か、その兄弟「天竜(てんりゅう)しぶき」のどちらかを手に入れた師匠は2001年まで大切に育て続けていたという訳でした。

その秋に花が咲いたところ、持ち帰った2株のうち1株は一重で、八重が咲いたのは1株のみでしたが、その貴重な1株の数輪に別品種を交配したところ幸いしっかり実り、すぐに播いたところすくすく育って翌秋には花を咲かせてくれました。その花もたがいに交配すると翌秋には開花し、その中には通常夜に花が閉じるはずが夜も閉じにくい株が生まれました。

そのさらに2世代交配をするとなんと今度は三重咲が生まれてきたのです。それまでの八重咲は花弁が倍になった二重咲ばかりでしたので、ここで初めてその壁を越えた新しいものが出来たのでした。

大学で最新の遺伝学を学んだ末に最初の交配に取り入れたバイカラーは突然変異する遺伝子を持っていたはずですので、それが様々な性質を生み出したのだろうと思います。リンドウの三重咲は先人の情熱を受け継いだ末に生まれたもので、見かけましたらこの物語を思い出していただけると嬉しい限りです。この三重咲が本格デビューしたのはずいぶん時間が経った2019年で、初開花から12年後と、こちらも長い道のりで紆余曲折はいずれ。

八重咲リンドウ “蒼孔雀” 誕生物語